金融研究 第18巻第5号  (1999年12月発行)

貨幣の最適な発行単位の選択について

北村行伸

 本稿では、表面的には市場のない形で並行的に流通している多種類の紙幣および鋳貨が、実は広い意味では市場調整を受けているという点を説明し、それを手掛かりに、最適な貨幣発行単位の選択について検討する。
 もし、貨幣が一般の財であれば、その使用価値の違いは、市場の需給を通して価格・数量ともに調整されると考えられるが、法定貨幣の価格はその貨幣単位そのものであり、市場メカニズムによって価格が調整される余地はない。したがって、それぞれの使用価値あるいは貨幣需要に違いがあれば、それはもっぱら数量で調整されることになる。
 ところで、わが国で発行されている貨幣単位は実際の取引に対して最適なものであろうか。そもそも最適な貨幣単位の分布を求めることはできるのであろうか。また、もしそのような最適性が計算できるとして、現実に流通している貨幣単位はその最適性の基準からどれぐらい乖離しているのだろうか。
 本稿では、最適な貨幣単位とは、発行されている貨幣の使用価値が相対的に等しくなり、相対的な需要が無差別になるように定められている貨幣単位であるとしたうえで、わが国の実際の貨幣単位の設定が、貨幣流通量にどのような影響を与えているかを検討した。その結果、5千円札が貨幣流通量を大幅に歪めていることがわかった。

キーワード:貨幣、貨幣発行単位、 Bachet問題


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