金融研究 第17巻第6号 (1998年12月発行)

経済変数から基調的変動を抽出する時系列的手法について

肥後雅博、中田(黒田)祥子

 本稿では、5種類の時系列的手法を用いて、各種の経済変数から、景気循環に相当する成分やさらに長い周期を持つ長期トレンド成分に相当する「基調的変動成分」を抽出する。この抽出法では、原系列の変動から、景気循環やトレンドを覆い隠してしまう季節変動成分や短周期の不規則成分を除去することを目的としている。
 分析結果によると、X-12-ARIMA季節調整プログラムを利用したヘンダーソン加重移動平均法、フーリエ変換を利用したBand-Passフィルター、DECOMPの3つの手法では、周期1年半ないし2年以上の成分を抽出することにより、景気循環の変動を把握することが可能である。一方、景気循環より長い長期的トレンド成分だけを適切に抽出することは難しく、この機能を完全に持つ手法は今回は見出せなかった。HPフィルターが比較的これに近い機能を有しているが、景気循環に相当する3年程度以上の周期の成分を含んでいる。
 また、時系列的抽出手法は、抽出される基調的変動成分の時系列的性質が明らかになるため、先行き予測に役立つこと、汎用性に富み、ほとんどの経済変数の時系列に適用可能であること、統計パッケージにより簡単に計算が可能であること、などの利点を持つ。一方で、抽出成分の実体経済における意味付けが難しいこと、データ系列が追加され、推定期間を変更すると、抽出される基調的変動成分・長期的トレンド成分が変化するという欠点がある。特に直近部分の抽出結果は、事後的に改訂される可能性が高いため、変動の変化率が急激に変化している場合には、結果の解釈に留保が必要である。この際、改訂の可能性を判断する目安として、複数の時系列的手法による結果を比較することが有用である。

キーワード:基調的変動、時系列分析、X-12-ARIMA、DECOMP、HPフィルター、フーリエ変換、Beveridge and Nelson分解


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