本稿では近年著しく発展しているデリバティブ市場に着目し、オプション取引価格の情報変数としての有用性について検討を加える。オプション取引価格からは、原資産の将来価格の期待分布(インプライド確率分布)に関する情報を得ることができる。この情報を利用することで、市場参加者の原資産価格変動の期待について、どれだけの広がりがあるのか、上昇・下落どちらの方向へのリスクを大きいと考えているのか、あるいは期待分布の裾がどれほど重く、市場に大幅な価格変動が生じるリスクがどの程度あると考えているのか、といった点を検討することができる。本稿では、こうした手法の有用性をケース・スタディにより検討する。具体的には、株価指数オプションおよび長期国債先物オプションを採り上げ、インプライド確率分布を推計し、その変化を時系列的に観察する。ケース・スタディの対象期間は、1989年から1990年にかけてのバブル崩壊期、1992年から1994年の株価ボトム期、およびデフレ・スパイラルの懸念が高まった1995年の3つの期間とし、市場の期待形成の変化とその金融政策運営上の含意を検討する。
キーワード:オプション、インプライド確率分布、期待形成、金融政策、情報変数
掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。