金融研究 第42巻第1号 (2023年1月発行)

見積りを伴う会計論点の検討:財務報告の有用性向上に向けて

加藤達也、澤井康毅

近年、気候変動リスクなど企業活動における不確実性が高まるもとで、こうしたリスクを適切に財務報告に反映させる観点から、見積りを伴う会計論点を再考する動きがみられている。本稿では、見積りを伴う会計処理のうち、日本基準において要件が明確ではないとされる引当金会計を取り上げる。引当金の情報が投資家の意思決定に有用かを実証的に分析するとともに、日本基準と国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards: IFRS)との違いも踏まえて、認識・測定のあり方など財務情報の有用性を考えるうえで重要な論点について理論的に検証する。実証分析の結果からは、わが国の引当金会計に係る有用性が低下していることや、日本基準とIFRSの間で価値関連性に有意な差はないことが確認された。日本基準の有用性が低下している原因について理論的な解釈を試みた結果、引当金の認識要件である蓋然性の閾値が高く、金額的に重要性のある費用・損失を適時に計上できていないこと、そもそも蓋然性の閾値が不明であることが比較可能性を損なっている可能性などを指摘した。

キーワード:会計上の見積り、引当金、財務報告の有用性、保守主義、価値関連性


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