金融研究 第39巻第1号 (2020年1月発行)

ビッグデータの法的保護に関する一考察

泉恒希

本稿では、ビッグデータを念頭に置いて、既存の著作権法により保護されないデータについて、知的財産法の観点から保護の要否を検討する。近年、情報技術の進歩を背景に、FinTechを支える基幹技術の1つとしてビッグデータが注目を浴びている。こうしたなか、ビッグデータの財産法的位置付けの明確化は、今後拡大が予想される金融データの利用、ひいてはデータ産業全体に向けての法的基盤整備を進めるうえで、不可欠な検討課題といえる。一方で、ビッグデータに排他権を認めることは、かえって情報の円滑な流通を阻害するとの指摘もなされており、ビッグデータの財産法的位置付けを議論するに当たっては、データ生産者の投下資本回収という私的なインセンティブと、情報の円滑な流通という社会的便益との調和を意識する必要があろう。本稿では、日本、米国、欧州連合(European Union: EU)を題材に、既存の著作権制度によるビッグデータ保護の可能性を検討したうえで、既存の著作権制度によって保護されない財産的価値のあるデータ(財産的データ)の法的保護のあり方について、近時の立法動向も踏まえつつ考察する。

キーワード:ビッグデータ、著作権、不正流用(misappropriation)の理論、独自の権利(sui generis right)、不正競争防止法、データ・プロデューサー権


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