金融研究 第37巻第3号 (2018年7月発行)

CoCo債市場から観測される金融機関のベイルイン確率

風戸正行、山田哲也

近年、バーゼルIII対応資本の1つである偶発転換社債(Contingent Convertible債:CoCo債)の発行が、欧州金融機関だけでなく、アジアやその他地域の金融機関においても増えてきている。そこで本研究では、既存のCoCo債のプライシング・モデルを拡張して、多様な商品性のCoCo債の価格から観測されるベイルイン確率(金融機関の資本不足を補うためにCoCo債が株式転換等される確率)を推計する。分析の結果、ベイルイン確率は、クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap:CDS)市場から推計されるデフォルト確率と比較して金融機関の資本健全性が意識される局面で鋭敏に反応することがわかった。この結果は、ベイルイン確率が金融危機の早期警戒指標として活用しうることを示唆している。また、ベイルインした条件のもとでデフォルトする確率を推計したところ、CoCo債の累積発行残高が増えるに連れて低下する傾向にあることが確認された。これは、CoCo債の発行が、損失吸収バッファーを増加させることによって、金融機関をデフォルトしにくくすると投資家が考えていることを示している。こうした結果は、CoCo債の価格が金融システムの安定にとって有益な情報を含んでいることを示唆している。

キーワード:インプライド・ベイルイン確率、偶発転換社債(CoCo債)、バーゼルIII、金融システムの安定


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