金融研究 第36巻第1号 (2017年1月発行)

多国籍企業の租税回避と所在地別セグメント情報の開示行動

浅野敬志

本稿は、税務当局に向けた情報開示だけでなく、税務当局以外の情報利用者に向けた情報開示についても、透明性の向上とそれに伴うモニタリング機能の向上を通じて多国籍企業の租税回避に影響を及ぼし得るとの問題意識のもと、わが国の多国籍製造業を対象に、セグメント会計基準の改訂前後で所在地別セグメント情報の開示と租税回避の関係が変化しているかどうかを検証している。実証分析の結果、セグメント会計基準の改訂後に所在地別セグメント情報を非開示にする多国籍企業は租税回避に積極的になることが判明した。この結果は、所在地別セグメント情報の開示が多国籍企業の租税回避を抑制することを示唆するものである。先行研究では、所在地別セグメント情報は投資意思決定やエージェンシー・コストの削減に有用であることが示されているが、本稿では、所在地別セグメント情報の開示が多国籍企業の透明性を高め、租税回避を抑制するといった、所在地別セグメント情報の有用性を示す新たな証拠を示している。

キーワード:所在地別セグメント情報、多国籍企業、租税回避、税源浸食と利益移転(BEPS)、モニタリング機能、コーポレート・ガバナンス


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