ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2016-J-9

多国籍企業の租税回避と所在地別セグメント情報の開示行動

浅野敬志

本稿は、別表17(4)や国別報告書などの税務当局に向けた情報開示だけでなく、税務当局以外の情報利用者に向けた情報開示についても、透明性の向上とそれに伴うモニタリング機能の向上を通じて多国籍企業の租税回避に影響を及ぼしうるとの問題意識のもと、わが国の製造業(日経業種分類の大分類)に属する多国籍企業を対象に、セグメント会計基準の改訂前後における所在地別セグメント情報の開示と租税回避の関係を検証している。実証分析の結果、セグメント会計基準の改訂後に所在地別セグメント情報を非開示にする多国籍企業は租税回避に積極的になることが判明した。この結果は、所在地別セグメント情報の開示が多国籍企業の租税回避を抑制することを示唆するものである。先行研究では、所在地別セグメント情報は投資意思決定やエージェンシー・コストの削減に有用であることが示されているが、本稿では、所在地別セグメント情報の開示が多国籍企業の透明性を高め、租税回避の抑制につながることを確認しており、所在地別セグメント情報の有用性を示す新たな証拠を提示している。

キーワード:所在地別セグメント情報、多国籍企業、租税回避、税源侵食と利益移転(BEPS)、モニタリング機能、コーポレート・ガバナンス


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