金融研究 第34巻第1号 (2015年1月発行)

会計上の保守主義が企業の投資水準・リスクテイク・株主価値に及ぼす影響

中野誠、大坪史尚、髙須悠介

本稿では、投資家(株式市場)の視点から、会計上の保守主義の経済的影響について検証する。具体的には、条件付保守主義および無条件保守主義が日本企業の投資水準・リスクテイクおよび株主価値(株式リターン)にいかなる影響を及ぼしているかを実証的に分析する。分析の結果、条件付保守主義に関しては、その程度が高い企業ほど、投資が抑制されるほか、リスクの低いタイプの投資を行うとする証拠が得られた(自己規律効果、事後モニタリング効果)。他方、無条件保守主義に関しては、その程度が高い企業ほど、より多くの投資を行うほか、リスクの高いタイプの投資を行うとする証拠が得られた。これらの現象は、無条件保守主義の程度が高いほど、条件付保守主義による業績の下振れリスクが限定的になることを通じて、経営者のリスクテイク余力が高まり、リスクの高いプロジェクトへの投資を行うようになることを示唆している(リスクテイク促進効果)。また、株主価値への影響に関する分析では、主分析からいずれの保守主義も投資と株主価値との関係性(投資効率)を改善する可能性が示されたものの、分析結果は頑健ではない点が確認された。保守主義には以上のような経済的効果が観察されるものの、保守主義の弊害や財務報告上の中立性(neutrality)を侵害することのコストに関しては、別途検討が必要である。

キーワード:条件付保守主義、無条件保守主義、中立性、投資水準、モニタリング機能、リスクテイク、株主価値(株式リターン)


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