ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2014-J-4

会計上の保守主義が企業の投資水準・リスクテイク・株主価値に及ぼす影響

中野誠、大坪史尚、髙須悠介

 本稿では、投資家(株式市場)の視点から、条件付保守主義、無条件保守主義の2つの会計上の保守主義(accounting conservatism)の経済的影響についてそれぞれ検証する。具体的には、2つの保守主義が日本企業の投資水準・リスクテイクおよび株主価値(株式リターン)にいかなる影響を及ぼしているかを実証的に分析する。
 主な分析結果は次のとおりである。条件付保守主義に関しては、その程度が高い企業ほど、投資が抑制されるほか、投資を実行する場合には、リスクの低いタイプの投資を行っているとする証拠が得られた(自己規律効果、事後モニタリング効果)。他方、無条件保守主義に関しては、その程度が高い企業ほど、より多くの投資を行っているほか、投資を実行する場合には、リスクの高いタイプの投資を行っているとする証拠が得られた。これらの現象は、無条件保守主義の程度が高いほど、条件付保守主義による業績の下振れリスクが限定的になることを通じて、経営者のリスクテイク余力が高まり、リスクの高いプロジェクトへの投資を行うようになることを示唆している(リスクテイク促進効果)。また、株主価値への影響に関する分析では、主分析から2つの保守主義がいずれも投資と株主価値との関係性(投資効率)を改善する可能性が示されたものの、分析結果は頑健ではない点が確認された。
 上記の経済的効果が観察されたとはいうものの、保守主義は財務報告上の中立性(neutrality)には反している。こうした保守主義の弊害、中立性を侵害することのコストに関しては、今後、別途検討が必要である。

キーワード:条件付保守主義、無条件保守主義、中立性、投資水準、モニタリング機能、リスクテイク、株主価値(株式リターン)


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