金融研究 第30巻第2号 (2011年4月発行)

第一次大戦後の日本における国債流通市場の制度改革

永廣顕

 本稿の課題は、第一次大戦後の日本における国債流通市場の制度改革、具体的には株式取引所内における1920年の国債市場の開設と1925年の国債長期清算取引の開始について、それらの制度形成過程を解明することにある。第一次大戦中から戦後にかけての国債政策の推移を分析し、国債政策における国債流通市場の制度改革の位置づけを明確にするとともに、各政策主体の制度設計に関する考え方の特徴を考察しながら問題を検討する。
 第一次大戦後の国債流通市場の制度改革は、第一次大戦中から戦後にかけての国債の発行、消化および償還政策の変化に対応した施策であった。国債残高の累増に対し、国債の取引所取引が低迷していたことから、大蔵省、日本銀行、取引所仲買人、市中銀行の間で、国債の取引所取引を拡大して取引所市場の価格形成・公示機能の向上、国債価格の安定化、銀行の資金調達・運用の円滑化を図る国債流通市場の整備が必要であると認識されるようになった。加えて、大蔵省は国債の安定消化と過剰消費の抑制を目的とした国債の民衆化政策の観点、日本銀行は公開市場操作による金融政策の実現という観点からも、国債流通市場の整備が必要であると考えていた。国債流通市場の制度改革が展開する過程では、制度設計をめぐる論議の中心となった政策主体に変化がみられた。国債市場の開設については、国債の民衆化政策の観点も踏まえて大蔵省が主導したのに対し、国債長期清算取引の開始については、国債市場開設時からの国債仲買人(国債取引員)の政策要求に大蔵省と日本銀行が対応した。制度設計についての考え方は、大蔵省と日本銀行で異同がみられた。

キーワード:国債流通市場、取引所取引、長期清算取引、国債民衆化、政策主体、制度設計、第一次大戦後


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2011 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム