本稿では、就業・失業・非労働力の3状態間のフロー・データを用いて、わが国の失業率変動の要因を検討した。フロー・データの変化とバブル崩壊後の失業率の上昇には以下のような関係がみられる。まず、(1)就業から失業への流入確率が上昇していること、(2)失業からの就業確率が大幅に低下していること、(3)失業から非労働力化する傾向が弱まっているために失業継続者が累積していることが示唆される。次に、(4)非労働力から就業への移行確率が低下する中で、1990年代央からは、男性において非労働力から失業への参入が発生しており、(5)1990年代末から2000年にかけては、女性にもこの傾向が観察される。こうした結果は、失職者の累積とともに、非労働力から失業への流入という経路も、失業率を押し上げた可能性を示唆している。
本稿ではさらに、これらのフロー・データが将来の景気・物価予測等に追加的に有益な情報をもたらすかどうかという政策的関心を踏まえ、フロー・データの動きとマクロ経済との関係についての実証分析を試みた。分析結果からは、フィリップス・カーブをベースにした物価の将来予測分析では、失業率を用いるよりも、より物価・景気に感応的な就業−失業間のフロー・データを用いた方が、予測力が大幅に改善することが示された。
キーワード:失業率、失業のフロー分析、求職意欲喪失者効果、追加労働者効果、フィリップス・カーブによる物価予測
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