金融研究 第20巻第4号 (2001年12月発行)

「新しい開放マクロ経済学」について
―PTM(Pricing-to-Market)の観点からのサーベイ

大谷聡

 1960年代以降、国際マクロ経済学の主流は、IS-LM分析を開放経済体系に拡張したマンデル=フレミング・モデルであった。しかし、近年、伝統的なケインズ経済学の特徴である価格の硬直性と、その理由の1つである独占的競争を、動学的一般均衡モデルに取り入れた「新しい開放マクロ経済学」が多くの関心を集めている。この「新しい開放マクロ経済学」は、消費者の効用最大化や企業の利潤最大化を前提としたミクロ的基礎に基づいているため、政策変更による経済主体の行動を厳密に分析できるほか、経済厚生の観点から経済政策の評価が行えるようになっているといったメリットがある。さらに最近では、「新しい開放マクロ経済学」を一層拡張する研究が行われており、その代表的なものとしては、企業のPTM(pricing-to-market)に基づく価格設定行動を明示的にモデルに取り組む研究が行われている。こうした研究によって、企業の価格設定行動が、金融政策の国際的波及効果や最適な金融政策ルール、さらに為替制度の選択に影響を与えることが明らかにされており、少なくとも経済理論のうえでは、「政策当局が国際的な視点を持ってその政策を遂行する場合には、企業の価格設定行動を考慮する必要がある」との認識が広がっている。

キーワード:新しい開放マクロ経済学、PPP(purchasing power parity)、PTM(pricing-to-market)、金融政策、近隣窮乏化効果、為替相場制度


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