金融研究 第15巻第4号 (1996年11月発行)

金利リスクの統合管理について

池森俊文

 銀行の抱える金融リスクの中で、金利リスクは最も影響度の大きいものの一つである。本稿では、この金利リスクを統合的に管理するための理論的な枠組みについて考える。
 そのために、ほぼ業界標準が出来上がりつつあると思われる「トレーディング取引」の市場リスク管理の方法、すなわち損益を時価ベースで捉え、市場リスク要因が変動することに対する時価損益の感応度によって市場リスクの程度を計測し、さらにVaR(Value at Risk)手法によって様々な市場リスク要因に起因するリスク量を統合化する方法を出発点とする。
 その手法の中で、特に金利リスク計測に独特の問題である「金利の期間構造」の変動を処理する方法として、バケット分解の方法と変動成分分解の方法を取り上げ、それぞれの方法の概略と相互の関係について検証する。さらに、多通貨ポートフォリオの抱える金利リスクと為替リスクを整合的に計測するための工夫についても考える。
 次に、この時価評価をベースとする「トレーディング取引」の市場リスク管理の方法を、期間損益ベースでの管理が一般的となっている「バンキング取引」の損益計測や金利リスク計測に関係付ける方法を提案し、感応度分析に関しては両者にある程度整合的な対応関係があることを示す。しかし、VaR分析に関しては、満期までの保有という「バンキング取引」に特有の性質を考慮すると、時価損益をベースとした「トレーディング取引」の金利リスク量の計測方法が、必ずしも単純に「バンキング取引」に延長できないと考え、各年度の期間損益ベースの損益が金利変動の周期性に対していかに変動するか、という設定の下で新しい金利リスク量の定義を試みる。
 その他、金利リスクとしての期限前解約の問題や、金利リスクの管理と信用リスクの定量化との関係についても考える。

キーワード:期間損益、時価評価、感応度分析、VaR分析、主成分分析、金利の期間構造、金利変動の周期性


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