本稿は、サービス事業者を介さず、台帳を用いることなく決済を可能とする決済方式について、その技術的側面から考察を行うものである。これは、現金に見立てた電子データの送受信によって決済を行う手段であり、暗号技術に関する研究分野では、「電子現金」という名称で検討が進められてきた。1990年代にはいくつかの実証実験が行われたが、当時の技術水準ではユーザビリティを確保することが難しかったものと推測される。そこで、本稿では、この間の技術進展および社会ニーズを踏まえて電子現金方式の再整理を行うとともに、スマートフォンを用いた実機検証を通して、現在の技術水準であればユーザビリティの高い電子現金を提供できる可能性があることを示す。また、技術的側面から、電子現金のさらなるユーザビリティ向上とプライバシ強化に向けて、電子現金を任意の金額に分割・集約可能な方式、および、同一ユーザが使用した電子現金の相互の関連付けを困難とする方式を提案する。なお、本稿はあくまで電子現金にかかる技術面からの考察を行うものであり、法律や制度、実運用等、社会実装に向けた実現可能性は検討の対象外であることには留意されたい。
キーワード:スマートフォン決済、デジタル決済、電子現金、電子マネー、プライバシ保護
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