資産価格変動の不確実性を表すボラティリティは、ファイナンス研究において重要な研究対象である。近年、ボラティリティが「ラフ性」を有すること、すなわち、ボラティリティの時間発展が従来の認識に比べ激しいことを示唆する研究が進展しており、ボラティリティ研究の新潮流となっている。これらの研究では、資産価格の高頻度データやデリバティブ価格から計測されるボラティリティのラフ性などの実証に加え、ラフなモデル化の必要性に関する理論や、デリバティブの価格付けなどへの応用が議論されている。また、ラフ性を生じさせるメカニズムの解明を試みる研究もみられている。本論文では、資産価格変動の時系列解析、デリバティブの価格付け・リスク管理、資産価格形成のメカニズム解明の3つの論点に関し、それぞれの発展経緯を整理し、ラフ・ボラティリティ研究の位置づけや発展可能性を述べる。とくに、金融実務における問題意識や経済学との関わりも踏まえ、ボラティリティを結節点とした分野横断的な研究が重要であることを明らかにする。
キーワード:ヒストリカル・ボラティリティ、インプライド・ボラティリティ、マーケット・マイクロストラクチャー、高頻度取引、デリバティブの価格付け、リスク管理、市場予測
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