金研ニュースレター 2022年6月

2022年国際コンファランス

日本銀行金融研究所では、5月25~27日に2022年国際コンファランスをオンライン形式で開催しました。1983年に第1回を開催して以降、今年で27回目の開催となった今回のコンファランスでは、「中央銀行の迎える新たな局面とフロンティア」をテーマに設定し、幅広いトピックについて議論しました。 [Program]

1. 開会挨拶

開会挨拶を行う黒田東彦総裁(日本銀行、写真:野瀬勝一)

黒田東彦総裁(日本銀行)は、中央銀行が現在直面している課題として、インフレの高進と地政学リスクの高まりという2点を挙げました。加えて、中央銀行が切り開いていくべきフロンティアとして、経済の構造変化、気候変動対応、マネーシステムの変革の3点を指摘しました。このように急速に世界が変化し、かつ先行きの不確実性もきわめて高いなかで、フロンティアを開拓し、課題に取組んでいくためには、中央銀行はnimble(敏捷)、agile(機敏)、smart(スマート)であるべきと訴えました。 ( Video / English [48KB PDF] / Japanese [231KB PDF] )

2. 前川講演

前川講演を行うケネス・S・ロゴフ教授(ハーバード大学)

ケネス・S・ロゴフ教授(ハーバード大学)は、中央銀行の独立性とそれがいま困難に直面していることを論じました。名目金利のゼロ制約によって金融政策の有効性が低下し、それゆえ過去10年の間に中央銀行に対する政治的な圧力が強まってきたと指摘しました。そして近年、グローバリゼーションが反転する動きにあり、価格変動の柔軟性が低下し、企業の独占力も強まっていることがインフレを抑制しにくい状況を生んでおり、これが中央銀行に対する強いプレッシャーにつながっていると指摘しました。

さらに、民間デジタル通貨の台頭は、中央銀行の政策手段の有効性に負の影響を与えていると指摘し、これらの通貨に対する規制を強化する必要があるかもしれないと述べました。最後に、世界はポリティカルエコノミーの新時代に入り、中央銀行の独立性が新たな重要性を帯びるようになったと指摘し、中央銀行が直面している政治的・技術的な環境変化に対処するためには、中央銀行もまた自らを革新していく必要があると論じました。 ( Video / English [118KB PDF] )

3. 基調講演

基調講演を行うカール・E・ウォルシュ名誉教授(カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校、金融研究所海外顧問)

カール・E・ウォルシュ名誉教授(カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校、金融研究所海外顧問)は、最近の海外経済におけるインフレ高進を取り上げ、米欧では中央銀行による金融引き締めの遅れ(ビハインド・ザ・カーブ)がみられると指摘しました。次に、それがもたらす帰結を考察し、人々のインフレ期待がインフレ目標にしっかりとアンカーされていれば、政策対応の遅れがもたらす経済的コストは比較的小さいが、もしそうでないとすると大きなコストを背負い込むことになりうると説明しました。

続いて、政策当局者について、(初期段階で)インフレの持続性を過小評価し、強力な政策対応を採らず、先行研究の教訓に目を伏せてきたようだとコメントしました。更に、最近、米国連邦準備銀行がより包摂的な景気回復を目指して非対称で観察不能な目標を掲げたことを取り上げ、政治的圧力を受けやすく、インフレ・バイアスを持つ政策になってしまったと付け加えました。最後に、もし大幅に目標を超過したインフレ率が目標に戻らないようであれば、低インフレ環境を取り戻すためにはコストを伴う景気後退が必要になるかもしれないと指摘しました。 ( Video / English [1,261KB PDF] )

4. 政策パネル討論

若田部昌澄副総裁(日本銀行)を座長とする政策パネル討論では、ピエール=オリヴィエ・グランシャ経済顧問兼調査局長(国際通貨基金)、ジェームス・ブラード総裁(セントルイス連邦準備銀行)、フィリップ・R・レーン専務理事(欧州中央銀行)、ベンジャミン・E・ジョクノ総裁(フィリピン中央銀行)の4名のパネリストが、中央銀行が直面する新たな局面とフロンティアに関する様々な課題について議論を交わしました。インフレが高進するもとでの金融政策運営や、中央銀行の使命と独立性のあり方などが取り上げられました。

(上段左から)座長:若田部昌澄副総裁(日本銀行)、パネリスト:ピエール=オリヴィエ・グランシャ(国際通貨基金)、ジェームス・ブラード(セントルイス連邦準備銀行)、(下段左から)フィリップ・R・レーン(欧州中央銀行)、ベンジャミン・E・ジョクノ(フィリピン中央銀行)

5. 論文報告セッション

論文報告セッションでは、金融政策と関連するテーマとして、経済的な格差、気候変動問題、デジタル通貨、経済のオートメーション化についての4本の最先端の研究成果が発表され、討論者とフロア参加者も交えて議論が繰り広げられました。

セッション1:"Inequality and the Zero Lower Bound" 論文発表者:ヘズス・フェルナンデズ=ヴィラヴェルデ(ペンシルバニア大学、写真左)、討論者:仲田泰祐(東京大学、写真右)
セッション2:"Climate Change Mitigation: How Effective is Green Quantitative Easing?" 論文発表者:アレクサンダー・ルートヴィヒ(ゲーテ大学フランクフルト校、写真左)、討論者:トアン・V・ファン(リッチモンド連邦準備銀行、写真右) ( English <DPS>[1,290KB PDF] )
セッション3:"Digital Money as a Medium of Exchange and Monetary Policy in Open Economies" 論文発表者:池田大輔(日本銀行、写真左)、討論者:リンダ・S・ゴールドバーグ(ニューヨーク連邦準備銀行、写真右) ( English <DPS>[486KB PDF] )
セッション4:"Monetary Policy in the Age of Automation" 論文発表者:ルカ・フォルナーロ(CREI兼ポンペウ・ファブラ大、写真左)、討論者:藤原一平(慶応義塾大学兼オーストラリア国立大学、写真右)

6. 全体総括

全体総括を行うアタナシオス・オルファニデス教授(マサチューセッツ工科大学、金融研究所海外顧問)

全体総括において、アタナシオス・オルファニデス教授(マサチューセッツ工科大学、金融研究所海外顧問)は、今回のコンファランスの各セッションで取り上げた論点を総括したうえで、中央銀行が物価の安定性を確保することに注力し続けることの重要性を強調し、コンファランスを締めくくりました。

関連リンク: 過去の国際コンファランス