金融研究 第34巻第1号 (2015年1月発行)

企業のガバナンス構造と会計戦略および企業価値との関連性について

浅野敬志、古市峰子

本稿は、一般に認められた会計原則の枠内での具体的な会計処理につき経営者に裁量余地がある場合に、財務報告の目的の1 つである情報の非対称性の緩和ないしエージェンシー・コストの削減をよりよく達成し、ひいては企業価値の向上につながりうるような会計戦略を経営者が選択するうえで、企業のガバナンス構造はどのような影響を与えるかを検討している。考察の結果、会計戦略が経営者の私的情報の提供等によるエージェンシー・コストの削減を目的としてなされた場合には、利益の質の向上による資本コストの低下を通じて企業価値の向上がもたらされる可能性が高まることが示唆された。そのうえで、経営者による会計戦略の選択が企業価値の向上につながりうる場合のガバナンス構造の例を検討し、仮説として、(1)例示のようなガバナンス構造を有する企業においては、利益平準化や保守主義が企業価値の向上に資する一方、そうでない企業がこうした会計戦略をとることは企業価値の向上につながらない可能性が高いこと、(2)法規制や慣行等により、こうしたガバナンス構造を有する企業が少ない国・地域では、会計基準等によって会計戦略にかかる経営者の裁量余地を狭めるほうが望ましいこと、(3)他の仕組みによってガバナンスが強く働いている企業が保守主義の程度を強めることは、場合によっては企業価値の減少につながりかねないことを提示している。

キーワード:会計戦略、利益調整、コーポレート・ガバナンス、利益平準化、保守主義、利益の質、企業価値


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