ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2014-J-5

企業のガバナンス構造と会計戦略および企業価値との関連性について

浅野敬志、古市峰子

 本稿は、一般に認められた会計原則(GAAP)の枠内での具体的な会計処理につき経営者に一定の裁量余地がある場合において、財務報告の目的の1つである情報の非対称性の緩和ないしエージェンシー・コストの削減をよりよく達成し、ひいては企業価値の向上につながりうるような会計戦略を経営者が選択するうえで、企業のガバナンス構造はどのような影響を与えるかを検討している。
 考察の結果、会計戦略が経営者の機会主義的な目的ではなく、私的情報の提供等によるエージェンシー・コストの削減を目的としてなされた場合には、利益の質の向上による資本コストの低下を通じて企業価値の向上がもたらされる可能性が高まることが示唆された。そうした経営者の目的は投資家等から判別困難であるものの、企業のガバナンス構造からある程度推察可能と捉え、経営者による会計戦略の選択が企業価値の向上につながりうる場合のガバナンス構造を検討し、例示している。そのうえで、仮説(推論)として、①例示のようなガバナンス構造を有する企業においては、利益平準化や保守主義が企業価値の向上に資する一方、そうでない企業がこうした会計戦略をとることは企業価値の向上につながらない可能性が高いこと、②法規制や慣行等により、こうしたガバナンス構造を有する企業が少ない国・地域では、会計基準等によって会計戦略にかかる経営者の裁量余地を狭めるほうが望ましいこと、③他の仕組みによってガバナンスが強く働いている企業が保守主義の程度を強めることは、場合によっては企業価値の減少につながりかねないこと、を提示している。

キーワード:会計戦略、利益調整、コーポレート・ガバナンス、利益平準化、保守主義、利益の質、企業価値


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