2007 年夏以降の世界的な金融危機を契機とする金融規制の見直しの一環として、金融機関の破綻処理に関する議論が高まっている。金融機関の実効的な破綻処理に関する議論のひとつに、破綻処理手続の早期開始がある。金融機関の破綻の影響をできる限り小さくするには、早期の段階で破綻処理手続を開始することが望ましい。さらに近年の国際的な議論においては、システミックな影響を持つ金融機関を中心として、債務超過よりも早期の段階での破綻処理手続の開始を認める必要がある旨が指摘されている。
しかし、未だ債務超過に至っていない段階で、問題となっている金融機関の破綻処理手続を開始し、株主の権利を強制的に消滅させることは、実体法上の権利内容を害するおそれがある。この点、米国と欧州では、異なるアプローチではあるものの、利害関係人の権利の消滅を伴い得る破綻処理手続の早期開始のための制度整備が進められてきている。わが国でも、今般改正された預金保険法の中で、破綻処理手続の早期開始とそれに伴う問題への対応に関連する金融機関の秩序ある処理の枠組みの整備が図られたところである。本稿は、破綻金融機関の株主の権利を巡る米国と欧州での議論状況の紹介を通じて、両者の差異を明らかにし、わが国の金融機関の破綻処理法制の位置付けを確認する。
キーワード:金融機関、早期破綻処理、株主、公的収用、損失補償、国家賠償、預金保険法
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