金融研究 第31巻第1号 (2012年1月発行)

戦間期日本企業の資金調達と投資行動:産業別企業財務データベースに基づく再検討

武田晴人

 本稿は、戦間期日本企業の資金調達データに基づいて、各産業部門ごとの投資行動と資金需要、これに対応した資金チャンネルを検討したものである。
 検討の結果は次のとおり。第1に、第一次大戦から1920年代末までに、企業の投資資金需要は大戦期の流動資産の増加から昭和恐慌期にかけての設備投資資金中心へと推移した。これに対して1930年代には流動資産投資資金が設備資金を上回るテンポで増加した。
 第2に、1920年代末まで資金調達面では長期負債の比率が社債を中心に上昇した。他方で株式市場経由の資金の役割は、1920年代前半にはやや高いものの、それ以外の時期には20~30%程度で安定し、1930年代の景気拡大期にも際立って高くはなかった。特徴的であったのは、内部資金の増大で、それは配当性向が抑制されたからであり、この時期の大企業が株式市場を意識した財務政策から自由になりつつあったことを意味した。また、外部負債では1930年代半ばから急増する流動資産に対応した短期負債の増加が目立ち、企業と銀行との関係でも昭和恐慌以前とは異なる特徴が見いだされた。
 このような企業金融の変容のなかで、財閥系の中核企業群では、恐慌期においても系列金融機関との関係が良好に保たれていたから、内部資本市場は独自の地位を占め続けていた可能性が高かった。

キーワード:資本市場、企業金融、設備投資、減価償却


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