ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2011-J-17

戦間期日本企業の資金調達と投資行動
——産業別企業財務データベースに基づく再検討——

武田 晴人

 本稿は、戦間期日本の企業について資金調達という視点から必要なデータを整備して提示し、これに基づいて、各産業部門での設備投資額を企業の財務データから算出した減価償却額を加えたベースで推計することで、部門ごとの投資行動を明らかにするとともに、それによってどのような資金需要が発生したのか、また、これに対応してどのようなチャンネルで資金供給が行われたかを検討したものである。
 検討の結果は次の通り。第1に、第一次大戦から1920年代末までに、企業の投資資金需要は大戦期の流動資産の増加から昭和恐慌期にかけての設備投資資金中心へと推移した。それは、大戦中の異常な在庫投資への反動であると同時に、恐慌期の有利子負債整理が流動資産の大幅な圧縮とともに進行したからであった。これに対して1930年代には設備投資拡大による投資資金需要では、流動資産投資資金が設備資金を上回るテンポで増加した。
 第2に、1920年代末まで資金調達面では長期負債の比率が社債を中心に上昇したが、それは銀行資金が貸出から形態を変えて供給されたものであった。他方で株式市場経由の資金の役割は、20年代前半にはやや高いものの、それ以外の時期には20~30%程度で安定し、とりわけ1930年代の景気拡大期には株式市場の活況にもかかわらず、大企業部門の資金調達に際立って高い役割を果たすことはなかった。特徴的であったのは、内部資金とりわけ減価償却資金の役割の大きさであった。それは利益率の回復にもかかわらず、拡大を主導した鉱工業部門大企業で配当率が抑制され、内部留保率が高まったからであり、この時期の大企業が株式市場を意識した財務政策から自由になりつつあったことを意味した。また、外部負債では1930年代半ばから急増する流動資産に対応した短期負債の増加が目立ち、企業と銀行との関係でも昭和恐慌以前とは異なる特徴が見出された。
 このような企業金融の変容のなかで、内部資本市場に資金を依存するような財閥系の中核企業群では、恐慌期においても系列金融機関との関係が良好に保たれていた。内部資本市場は1930年代まで資金配分において独自の地位を占め続けていた可能性が高かった。

キーワード:資本市場、企業金融、設備投資、減価償却、戦前期


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