金融研究 第25巻第3号 (2006年10月発行)

流動性の理論と景気変動

加藤涼

 本稿は、情報の非対称性が存在する資本市場において、企業の流動性需要が発生するメカニズムを明らかにしたHolmstrom and Tirole[1998]のモデルを無限期間の動学的一般均衡(dynamic general equilibrium: DGE)モデルに拡張することで、流動性の需給の変化が景気変動に与える影響と、1990年代の日本経済における金融問題に対する含意を導いたものである。
 本稿の主眼は、構築されたDGEモデルが、リアル・ビジネス・サイクル(real business cycle: RBC)・モデルやトービンのQモデルでは再現することができない現実の設備投資やGDPの動学特性を再現できることを示すことにある。本稿のモデルは、外生的なショックがピークアウト(あるいはボトムアウト)した後も、持続的に景気が拡大したり後退したりする現象を再現する。また、企業の流動性依存度(設備投資1単位当たりに必要な流動性資金)が景気と逆相関するという、いわゆる「レンディング・ビュー」の実証研究によって確認されている事実についても厳密な金融契約のモデルと一般均衡分析の枠組みから理論的背景を提示する。さらに、本稿のモデルを用いることで、景気浮揚策としての税金投入による不良債権の一括処理に理論的根拠を与えることができる。

キーワード:流動性、不完全資本市場、動学的一般均衡モデル、不良債権問題


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