金融研究 第17巻第4号 (1998年10月発行)

第8回国際コンファランス
(バックグラウンドペーパー)
情報革新技術による経済へのインパクトと金融政策のあり方について

井上哲也

 現代の経済社会では、情報技術革新の進展に伴い、知識や情報など無形で知的な価値が経済活動に占めるウエイトが高まる一方、技術革新の成果を十分には手にしていないとの疑念も存在する。
 そこで、情報技術革新が経済に与えるインパクトを、既存の経済理論や実証結果から整理すると、ミクロレベルでの新技術の波及では、既存技術からのスイッチングコストやネットワーク外部性が重要な意味を持つ。マクロレベルでは、産業間での資本の再配分や労働力の再教育に要するコストのため、一時的には経済パフォーマンスが悪化する可能性がある。加えて、物価等の主要経済統計の計測誤差は、経済主体による最適化行動を困難化するが、対応策には限界がある。
 中央銀行にとって重要な課題は、こうした状況が最適な政策運営に与える影響を明らかにすることにあるが、この課題に直接に対応する分析は殆ど存在しない。このため、物価の動きに注目しながらこの課題に関する論点を整理すると、まず、物価指数の計測誤差は金融政策のコミットメント達成に関する観測を困難化するため、中央銀行に対する信認を損なう可能性がある。また、情報技術革新に伴う生産性の向上と関連物価の下落は「望ましいサプライショック」と捉えると、アコモデートしないことが最適であるとの結論が得られる一方、名目価格の硬直性や相対価格と一般物価の連動が存在する場合には、こうした結論には慎重である必要がある。

キーワード:情報技術革新、情報化パラドックス、経済統計の計測誤差、スイッチングコスト、ネットワーク外部性、調整コスト、相対価格、金融政策のコミットメント


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