ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2009-J-27

市場VaR計測の問題点とパラメトリック法による改善

久保田幸長

 市場リスクを表すVaR計測の代表的な手法は、パラメトリック法の1つである分散共分散法(以下、VCV法)と、経験分布を用いたヒストリカル・シミュレーション法(以下、HS法)である。VCV法では、仮定される正規分布よりも実際の損益分布の裾が重く、信頼水準どおりのVaRを得られないことが多い。一方、HS法のVaRは、限られた観測期間の更にごく一部のデータに依存するため、観測データへの依存性がVCV法以上に強くなり、これがVaRの不安定化をもたらすという問題を抱えている。
 本稿では、市場価格変動やポートフォリオの損失分布の特徴を踏まえたうえで、安定的なVaRが得られる扱い易いパラメトリックなVaR計測手法として、両側指数分布を用いた手法を提案する。また、観測データの多寡がVaR計測誤差に強い影響を及ぼすことをシミュレーションや解析的評価法により算出し、VaR値のブレの程度を示す。そのうえで、サンプルポートフォリオに対するバックテストを行い、VaR評価に求められる3つの要件(適合性、安定性、保守性)について検証した。その結果、VCV法、HS法に比べると、本稿の手法により上記要件のパフォーマンスが改善することが示唆された。

キーワード:VaR(value-at-risk)、片対数グラフ、両側指数分布、計測誤差


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