金融研究 第43巻第1号 (2024年1月発行)

デジタルマネーの権利と移転

デジタルマネーの私法上の性質を巡る法律問題研究会

本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「デジタルマネーの私法上の性質を巡る法律問題研究会」(メンバー〈50音順、敬称略〉:井上聡、垣内秀介、加毛明、神作裕之、神田秀樹〈座長〉、小出篤、宍戸常寿、菅野百合、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。デジタルマネーにはさまざまな種類が存在するが、その利用者の権利の法的性質は必ずしも定かではない。そこで、本報告書では、さまざまな種類が存在するデジタルマネーのうち、資金決済法の定める資金移動業者および第三者型前払式支払手段の発行者が提供するデジタルマネー、仲介者が存在する預金型および資金移動型デジタルマネー、ならびに、電子決済手段を取り上げ、利用者の権利の性質や権利が移転する際の法的な構成についての分析を行った。主な指摘事項は次のとおりである。(i)デジタルマネーは、種類によって利用者の権利そのものや権利移転の法律構成が異なりうる。具体的には、本報告書の対象とするデジタルマネーについては、権利の種類としては債権または信託受益権、移転については、債権譲渡、債権者の交替による更改、債権の消滅・発生と構成しうる。(ii)消滅・発生構成は、発行者と利用者との間の合意によって、発行者の管理する口座(アカウント)において、残高を記帳することによって権利を移転するという法律構成であり、口座の記録のみで第三者との関係を規律することを想定するものである。(iii)仲介者が存在する場合でも、仲介者が発行者を代理することにより消滅・発生構成を採りうる。(iv)デジタルマネーについては、マネーの流通性や安定性確保の観点から、転得者保護や発行者または仲介者倒産時の利用者保護が必要である。こうした点については、現行法に基づく解釈のほか、電子記録に対するコントロールに基づく権利の移転や転得者保護のルールを定める海外の動向が参考になると考えられる。


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