金融研究 第42巻第2号 (2023年4月発行)

経常収支調整の国際的文脈(1964~75年):OECDにおける「目標値」論争と日本の対応

矢後和彦

本稿は、1960年代後半から70年代前半における日本の経常収支調整がいかなる「国際的文脈」に置かれていたかを歴史的に検討する。「国際的文脈」が形成されたフォーラムとして、本稿では経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)、とりわけ経常収支調整を専門に担当する経済政策委員会第三作業部会(Working Party No. 3: WP3)を取り上げ、(1)経常収支をめぐる同時代当局者の「認識」、(2)こうした経常収支認識に立って対策を講ずる際の国際的な「言説」の構造、そして(3)これら「認識」や「言説」を繰り出した「主体」を検討の対象とする。とりわけ本稿では、議論の焦点として「目標値(aims)」を取り上げる。OECDでは1965年に加盟国の経常収支について「目標値」を設定するという議論がはじまり「早期警告システム(Early Warning System)」の導入を経て、加盟国の相互監視の基準となる「国際収支目標(Balance of Payments Aims)」に発展する。「目標値」の論理は日本の「二重構造論」や「景気循環論」とも結びつく局面があり、「目標値」の発想は欧州や日本の貿易・為替政策と意外に親和的だった。本稿では、こうした「目標値」をめぐる国際的言説がいかにして日本の経常収支調整とかかわることになるのか、という点に実証の焦点を置くこととする。

キーワード:OECD、WP3、経常収支調整、国際収支、目標値、国際機関、国際的文脈


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