金融研究 第41巻第4号 (2022年10月発行)

望ましいプライバシー保護のあり方を巡って:差分プライバシーの有用性と限界

菅和聖

現代社会では、個人情報の産業的な価値が高い一方で、個人情報の利活用に当たってはプライバシー保護との両立が求められる。差分プライバシーは、プライバシー保護の強さを定量的に評価する安全性基準であり、適度なプライバシー保護の実現に有用な概念である。本稿では、プライバシーを保護する枠組みの全体像を整理し、その中での差分プライバシーの位置付けを明確化する。さらに、差分プライバシーの理論やその応用研究を解説したあと、差分プライバシーの有用性と限界を踏まえながら、望ましいプライバシー保護のあり方を巡る課題を考察する。すなわち、自己情報のコントロールといったプライバシー保護に対する社会的要請に応えるためには、差分プライバシーのような数理的基準のみでは対処できない。社会的課題としてのプライバシー保護を実現するには、数理的技術や情報セキュリティに加えて、法制度、情報システムやビジネスの仕組みなどを総動員した対策が求められる。

キーワード:差分プライバシー、プライバシー保護、自己情報コントロール、匿名化、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)


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