金融研究 第41巻第3号 (2022年7月発行)

法人顧客情報の取引と利用に関する法律問題:商取引における新たな価値創造に向けて

事業者における顧客情報の利用を巡る法律問題研究会

本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「事業者における顧客情報の利用を巡る法律問題研究会」(メンバー〈50音順、敬称略〉:井上聡、加毛明、神作裕之、神田秀樹〈座長〉、宍戸常寿、白石忠志、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
近年、情報通信技術の発展等を背景に、幅広い事業者において、顧客情報を利用する動きが進展している。もっとも、顧客情報のうち、法人顧客情報の取引や利用に当たっての法的な枠組みについては、十分に議論されてこなかった。本報告書では、欧米の議論も参照しつつ、情報の特性や情報に関する権利の考え方等を整理したうえで、複数の事業者間で法人顧客情報が移転する特徴的な場面を用いて検討を行った。
本報告書の指摘事項は、主に次のとおりである。事業者間の契約で定めたり、契約がない場合に留意すべき事項として、(i)情報の不当な取扱いがあった場合の損害賠償額や情報の訂正・更新請求権、利益の分配請求権、(ii)情報の生成・収集に複数の事業者がかかわる共同作成データについては、加えて、情報の開示・移転請求権がある。(iii)取引の安全を図るため、将来的に、善意取得や時効に類似した制度を認める余地がある。このほか、(iv)デジタルプラットフォーム提供者のように顧客情報が集積する主体には、優越的地位の濫用規制等が適用されたり、顧客からの信頼等を根拠に商慣習または信義則上の守秘義務を負うと解される余地がある。


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

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