金融研究 第36巻第3号 (2017年7月発行)

景気変動が実質賃金に与える影響:インフレ率水準との関係

大井博之、上野陽一

本稿では、景気変動が実質賃金に与える影響について、特にインフレ率水準との関係に着目して、日本と米国を対象に検証した。検証においては、1986年から2014年までのマクロ時系列データを用い、インフレ率水準がマクロ経済変数間の連関に影響を与える可能性を考慮できる円滑遷移多変量自己回帰分析を採用した。実証分析から、日米ともに、(1)実質賃金は景気変動に対し正循環的であることがわかった一方、(2)実質賃金の景気変動への反応が景気改善時と悪化時で異なることについては、頑健な結果が得られなかった。さらに、(3)わが国では、景気変動をもたらすショックに対する実質賃金の反応は、インフレ率が高くなるほど大きくなる一方、米国では、インフレ率の高低と実質賃金の反応に明確な関係がみられないといった異なる結果が得られた。日米でこうした差異が見出される要因としては、物価観すなわち中長期的な予想インフレ率が形成されるメカニズムの違いなどが影響していると推測される。

キーワード:実質賃金、景気変動、フィリップス曲線、STVAR、一般化インパルス応答


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