金融研究 第32巻第1号 (2013年1月発行)

金融取引における預かり資産を巡る国際私法上の問題

早川吉尚

 本稿は、金融取引における預かり資産を巡る国際私法上の問題につき検討することを目的とするものである。
 本稿においては、まず、現在のわが国の国際私法のもと、金融取引における預かり資産を巡る権利義務関係がどのように評価されるのか、平時における場合を原則としつつ、倒産時における特殊性についても言及しながら、分析が加えられることになる。そしてその結果、現行法のもとでは、クロスボーダーに金融危機が発生する場合には、「預かる」アレンジメントの運用が極めて不安定にならざるを得ないことが明らかになる。その際の具体的な問題としては、(1)国の国際私法が統一されていないこと、(2)わが国の国際私法に限定しても先端的な問題については明文規定が不在であること、(3)ビジネスや社会の現代的変容のニーズと伝統的な国際私法の考え方の間に乖離があること、(4)倒産手続が開始されるような場合の国際私法秩序が不明確であることが、指摘されることになる。
 そこで次に、そうした問題の解決のためにどのような新たな法的インフラが望まれるかについての分析がなされることになる。その際には、上記の4 つの問題点が重要となり、また、金融資産を「預かる」アレンジメントの国際私法上の取扱いに関して国際統一制度の構築が目指された、「ハーグ証券決済準拠法条約」が、上記の4 つの視点から、注目されることになる。

キーワード:「預かる」アレンジメント、国際私法、準拠法、クロスボーダー、ハーグ証券決済準拠法条約、間接保有証券


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