金融研究 第31巻第3号 (2012年7月発行)

会計基準における混合会計モデルの検討

徳賀芳弘

 1980年代後半に一部金融資産の公正市場価値(fair market value)での評価が導入されて以来、傾向的に公正価値評価の適用対象・適用内容・適用時点が拡張されてきている。ストックに対する公正価値評価の範囲を拡げていくと、理論上は、会計利益に代わって純資産価値が企業価値の予測に用いられることになる。損益計算書で恒久利益を示す純粋フロー・ベースの評価モデルと貸借対照表の純資産で企業の経済価値を示す純粋ストック・ベースの評価モデルは、いずれも非現実的な仮定のもとでしか成立しえない理念型であり、会計数値との関係で異なる企業価値評価の仕組みを想定しているので、複式簿記システムを前提とする限り両立しない。これまでの実証研究の成果に基づけば、金融商品と金融機関が公表する会計情報を除けば、IASB/FASBの公正価値多用政策の効果は投資意思決定支援に関して限定的であり、契約支援の面でも新たなコストを発生させている。こうした状況下、現実的で合理的な会計モデルを提案すれば、「純資産価値モデルとしての混合会計」モデルと「会計利益モデルとしての混合会計」モデルが考えられる。いずれのモデルも、現行の会計基準に比して投資意思決定支援機能を高め、同時に契約支援において解決困難な問題を生み出さないという政策目標に沿った修正案であるが、前者のモデルは混合会計の理論的な位置付けは明確ではない一方、後者は、理論的には「のれん」価値の有無を線引きの規準とする堅牢なものである。

キーワード:公正価値、政策評価、純利益モデル、純資産価値モデル、投資意思決定支援、契約支援、機会主義的裁量行動


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