金融研究 第30巻第2号 (2011年4月発行)

IFRSによる見積り拡大と経営者、監査人の責任・対応:重要性を増す裁量的判断過程への内部統制

越智信仁

 わが国における国際財務報告基準(IFRS)導入を展望すると、今後、経営者による会計上の見積り要素の量的・質的な拡大等が見込まれるとともに、そうした取扱いを含む会計基準が財務報告に当たり、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」として規範力を有することになる。見積りを伴う会計数値については、会社の経済的実質を忠実に判断するに適した経営者に一定の裁量性を認めることが合理的であり、こうした裁量的判断に対し法的な結果責任を問うことは望ましくない。経営者に認められる経営判断原則と類似した条件のもとで、見積りのような専門的・技術的な会計判断についても、当該判断を行った当時の状況下での適切性を問う過程責任の考え方を法的に確立することは、契約理論の観点からも是認されよう。その際、例えばレベル3公正価値の評価方法の硬度引上げといった見積りの透明性を高める一般的な制度インフラ整備の努力と併行して、会計・監査当事者にとっては、事後的な訴訟にも耐えうる事前的な内部統制の重要性が増すことになる。原則主義のもとで、会計処理に関する経営者の裁量的判断も増えると見込まれるが、行為当時の判断過程を基礎付ける事実の蓄積や手続きの厳格化など、情報の信頼性向上に係る関係当事者の取組み強化が、投資家の意思決定に対する情報の有用性を高めることにもなろう。

キーワード:IFRS、会計上の見積り、原則主義、虚偽記載、過程責任、レベル3公正価値、内部統制


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