金融研究 第29巻第4号 (2010年10月発行)

金融取引の展開と信認の諸相

「金融取引におけるフィデューシャリー」に関する法律問題研究会

 本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「『金融取引におけるフィデューシャリー』に関する法律問題研究会」(メンバー〈五十音順、敬称略〉:池尾和人、井上聡、沖野眞已、加毛明、神作裕之、神田秀樹、武井一浩、田中亘、道垣内弘人、樋口範雄、藤田友敬、前田庸〈座長〉、森田果、森田宏樹、柳川範之、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
 「フィデューシャリー(fiduciary、信認義務者)」は、他者から信頼を受けて行動する者を指す英米法上の概念である。わが国においては、信託法上の受託者の義務を理論的に基礎付ける一応の概念として受容された後、1980年代以降は、金融の自由化、国際化や金融不祥事の発生等を背景に、さまざまな金融サービスを提供する者の義務を統一的に把握するための概念として注目された。
 今日に至り、規制緩和や金融技術の進歩等を背景として、金融取引は一段と多様化、複雑化の様相を呈しており、これに対応して、金融関連法制のあり方も、大きな変容を遂げている。これらの変化を受けて現出した新しい金融取引において、金融サービスを提供する者は投資家・顧客に対してどのような義務を負うのか。また、投資家・顧客の利益と金融サービスの提供者自身の利益とが衝突する場合、さらには複数の投資家・顧客間の利益が競合する場合において、どのような調整が図られるべきか。
 本報告書では、こうした問題意識から、まず、フィデューシャリーの概念等について整理したうえで、金融サービスの提供者のなかから、昨今の金融環境下において、特に注目されるものに焦点を当て、個別に検討を行っている。


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

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