金融研究 第29巻第3号 (2010年7月発行)

金融危機時における株式市場の期待変動:インプライド・モーメントとジャンプ拡散過程を用いた分析

杉原慶彦、小田信之

 本稿は、株式オプションの価格に包含(インプライ)された将来の株価の確率分布やそのモーメントを用いて、株式市場の期待変動を分析する。分析手法として、特定のモデルを仮定せずにインプライド・モーメントを導出するBakshi, Kapadia, and Madan [2003]の手法を発展させることで、まず、日独英米の株価指数データを対象に今次金融危機において市場で形成された期待の変化を分析する。次に、そうした市場の期待の背後にある価格変動の確率過程としてジャンプ拡散過程を想定し、金融危機が発生しその後市場のパニック的価格形成が徐々に沈静化していく局面で、市場の期待がどのように推移したかを検証する。その結果、今次金融危機では、いずれの国においても、ブラウン運動によって記述される連続的な株価変動の幅が拡大したと同時に、ジャンプによって記述される不連続な株価変動の可能性がダウンサイドに増大したことなどがわかった。こうした動きは、インプライド確率分布をみた場合に、分散の極端な増大となって現れたほか、歪度のマイナス幅の縮小や尖度の低下といった特徴も観察された。

キーワード:インプライド確率分布、インプライド・モーメント、ジャンプ拡散過程、ノンパラメトリック法、一般化モーメント法、特性関数法


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2010 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム