本稿は、日本銀行金融研究所が設置した「中央銀行預金を通じた資金決済に関する法律問題研究会」(メンバー〈五十音順、敬称略〉:池尾和人、井上聡、岩原紳作、神田秀樹、砂山晃一、中田裕康、藤田友敬、前田庸〈座長〉、松下淳一、三上徹、森田宏樹、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
商取引をはじめとするさまざまな経済活動は、当事者間の債権・債務を解消するために行われる資金決済が確実に行われるとの信認のうえに成り立っており、その安全かつ円滑な実行を確保するうえで、資金決済を巡る法制の整備が1つの重要な課題となる。資金決済には、企業や私人間の債権・債務を、銀行の預金を通じて決済する「顧客・銀行間決済」と、そうした顧客・銀行間決済等に伴い発生した銀行間の債権・債務を、中央銀行預金を通じて決済する「銀行間決済」とがある。主に大口の資金決済が行われる銀行間決済においては、システミック・リスクを削減することが重要な政策的関心となる一方で、顧客・銀行間決済においては、制度的・社会的な費用便益を評価しながら顧客保護を図ることが重要な政策的関心となる。
本報告書では、主に取引法の観点から、資金決済に関する諸問題について検討を行っている。しかも、これまでに展開されてきた議論の多くは、顧客・銀行間決済に焦点を当てたものとなっているのに対して、本報告書では、顧客・銀行間決済におけるこれまでの議論について検討を進めるとともに、銀行間決済についても顧客・銀行間決済との比較を交えた検討を行っている。
具体的には、まず、振込取引の法的性格および預金の法的性格について分析を行っている。次に、支払指図の瑕疵に関する問題、ファイナルな決済に関連する問題および決済プロセスで生じた損害についての責任負担に関する問題を取り上げ、顧客・銀行間決済と銀行間決済の双方について分析・検討を行っている。
掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。