金融研究 第28巻第2号 (2009年7月発行)

戦間期日本資本市場における生命保険会社の投資行動

武田晴人

 本稿は、両大戦間期の資本市場の発達に関する実証的研究の一環として、生命保険会社(以下、生保会社)が果たした役割を、その資産運用のあり方を通して検討する。
 まず制度的な規制を確認したうえで、生保会社間の規模別格差やその所有構造を考慮した3類型(四大生保、財閥系生保、その他)を設定し、生保会社の資産運用の変化を1928~32年、1932~37年、1937~40年の3期に分けて考察した。
 その結果、(1)生命保険の普及による資金量の増大は、資本市場における生保会社の地位を急速に高めることを通して資本市場に対する資金動員の新しいチャンネルを開き、投資家の構成を多様化させ、市場に「厚み」を与えたこと、(2)各生保会社は資本市場の状況に対応しながら同一の資金供給先に対してもその媒介手段(株式か、社債か、貸付かなど)の選択的運用を試みていたこと、(3)中期的には毎期の収益を基盤に評価損を計上して運用収益率を高めるとともに、必要に応じて時価売却によって収益を確保し、これを原資に再び資産評価を切り下げるという投資行動をとっているが、その具体的なあり方については3類型間に相違点が観察されること、(4)1930年代に財閥系生保が株式公開の受け皿となって安定株主の役割を担い長期保有が期待されるようになったことに加えて、有力生保会社はその運用規模の大きさ故に市場への影響を考慮した「慎重な」投資行動をとるような大口投資家という特質をもつようになったことなどの点が明らかにされる。

キーワード:生命保険、資産運用、資本市場、内部資本市場、財閥、機関投資家、戦間期


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