金融研究 第28巻第1号 (2009年3月発行)

個人消費支出からみた戦間期の景気変動:LTES個人消費支出の再推計

宇都宮浄人

 戦間期の景気変動は、これまで「長期経済統計」(LTES)のデータに基づき研究が進められてきた。もっとも、LTESは国民経済計算体系に則った1つの推計結果であり、GNEの支出コンポーネントとしてウエイトの高い個人消費支出の推計にはとりわけ留意が必要である。そこで、本稿では、個人消費支出の費目別の推計方法に修正を加えるとともに、推計誤差の大きい帰属計算を控除した個人消費支出を算出し、さらに、市場取引部分に着目した実質GDP(「調整後実質GDP」)を推計する。再推計の結果をみると、1920年代については、LTESが示す景気変動の姿に大きな変更はなく、従来から指摘されてきた「不均衡成長」を続ける日本経済が示される。これに対し、昭和恐慌期以降は、実質GDPがプラスを維持したLTESとはトレンドが変わり、1931年には、「調整後実質GDP」がマイナス成長を記録することが判明する。そうした動きは、デフレータの算式によるバイアスを考慮してもロバストなものである。国民経済計算の特徴と推計誤差を考慮すると、従来の研究では昭和恐慌の深刻度が過小評価されている可能性が示唆される。

キーワード:戦間期、昭和恐慌、個人消費、長期経済統計、国民経済計算、デフレータ、帰属計算


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