金融研究 第28巻第1号 (2009年3月発行)

わが国の金融市場における市場規律の活用の可能性について

前多康男

 金融のコングロマリット化や金融技術の発展に伴い金融機関の健全性を市場が監視するという市場規律に関する議論が高まってきている。本稿では、わが国における市場規律の活用の可能性について論じる。市場規律の概念の整理と既存文献の展望を行うとともに、わが国における市場規律の現状を分析する。金融機関に対する市場規律は大きく分けて、劣後債保有者の規律付けと預金者の規律付けがあり、これらを総合的にみることが重要である。劣後債の規律付けに関しては、劣後債のプレミアムが金融機関の財務内容を反映するものとなっており、また、預金上昇率も金融機関の財務内容を反映するものとなっている。これらの実証結果から判断すると、わが国において市場規律は十分にその働きを期待できる状態にあると思われる。しかし、銀行においては予見的な伝染効果が、信用組合については純粋な伝染効果が、それぞれ無視できない程度に存在していることも事実であり、市場規律の導入に向けては、これらの金融機関の預金者の行動に注意を払う必要があるといえる。

キーワード:市場規律、預金者規律、銀行


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