金融研究 第28巻第1号 (2009年3月発行)

日本の設備投資行動:1990年代以降の不確実性の役割

宮尾龍蔵

 わが国の設備投資行動に関する実証研究では、これまで「不確実性が高まると設備投資は抑制される」という結果が概ね示されてきた。しかしバブル崩壊後の日本経済では、不確実性が高まったという一般的な認識がある一方で、企業部門は過剰な資本設備を最近まで蓄積・維持してきたともいわれている。1990年代に入り不確実性は、本当に企業の設備投資行動を抑制してきたのだろうか。その役割は時間とともに変化しなかったのだろうか。本稿では、製造業、非製造業をともに含む個別企業データを用いて、日本の設備投資行動における不確実性の役割について再検証を試みた。その結果、不確実性が設備投資を抑制する効果は特に2000年代以降に顕著であり、1990年代半ばにおいては逆に設備投資を拡大した可能性が示された。さらに業種(製造業対非製造業)や負債比率でサンプル分割を行い、企業グループによって違いも検出された。ただし2000年代以降の投資抑制効果はどのグループについても有意であり、日本の企業部門が全体としてリスクに対してより慎重となり設備投資を抑制してきたことが示唆された。

キーワード:設備投資行動、不確実性、日本の長期停滞


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