金融研究 第27巻第2号 (2008年4月発行)

環境汚染に対する貸し手責任:理論的分析

前多康男、小野哲生

 本稿では、資金の貸し手としての金融機関に、借り手が行った環境汚染行為に対する厳格・連帯責任(貸し手責任)を課す場合の汚染防止の効果についての理論的分析を行う。本稿の結論としては、金融機関に貸し手責任を負わせない法的措置により、社会的最適、またはセカンドベストの均衡が達成されることをまず示す。しかし、実際の環境当局が社会的最適の達成よりも、環境汚染の迅速な原状復帰を目的としているときには、金融機関に貸し手責任を負わせる法体系が実現する可能性が大きい。この場合には理論的には複数均衡が発生し、貸し手責任が環境汚染に与える効果はそれぞれの均衡で異なることを明らかにする。それぞれの均衡で貸し手責任の効果は逆向きになり、貸し手責任が環境汚染を減少させる均衡と、逆に貸し手責任が環境汚染を増加させてしまう均衡の存在を示すことができる。環境汚染の速やかな浄化を主目的とする環境当局による貸し手責任の拡大が、逆に環境汚染を助長してしまう可能性もあることになり、環境汚染防止のためのこの種類の法制度を導入する効果はその目的を達しない可能性があることになる。環境汚染に対する金融機関の責任に関しては、このような理論分析の結果も踏まえて政策的な議論を行う必要がある。

キーワード:環境汚染、貸し手責任


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