金融研究 第26巻第2号 (2007年4月発行)

人々は賃金の変化に応じて労働供給をどの程度変えるのか?:労働供給弾性値の概念整理とわが国のデータを用いた推計

黒田祥子、山本勲

 本稿では、賃金変化に対する労働供給量変化の度合いを示す労働供給弾性値の概念整理を行い、そのうえで1990年代以降の都道府県・年齢層・性別の集計データから、これまで推計例の少なかったわが国における異時点間の労働供給弾性値の1つであるフリッシュ(Frisch)弾性値を推計した。労働供給量は、人々の労働市場への参入・退出を表す「就業の選択」(extensive margin)と、労働時間の変化を表す「労働時間の選択」(intensive margin)という2つの労働供給行動により変化しうる。分析の結果、賃金が一時的に変化した際に「就業の選択」と「労働時間の選択」の2つの労働供給行動がどの程度変化するかを反映したフリッシュ弾性値は、男女計で0.7~1.0程度、男性で0.2~0.7程度、女性で1.3~1.5程度と推計された。また、「労働時間の選択」のみを反映したフリッシュ弾性値の推計値は、男女計・男性・女性ともに0.1~0.2程度となった。これらの結果から、わが国の労働供給量の変化の多くは「就業の選択」を反映したものと解釈できる。次に、1990年代以降のわが国におけるフリッシュ弾性値の変化を検証した結果、集計データからみる限り、「就業の選択」と「労働時間の選択」を合わせたフリッシュ弾性値が横ばいもしくは低下傾向にあることや、「労働時間の選択」のみのフリッシュ弾性値は横ばいもしくは若干の上昇傾向にあること、「就業の選択」のみのフリッシュ弾性値は低下傾向にあることがわかった。

キーワード:労働供給、フリッシュ弾性値、就業の選択、労働時間の選択


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