本稿では、ニューケインジアンの最近の研究成果である粘着価格・賃金モデルに基づき、物価と賃金の相互依存関係を物価と賃金の2本のニューケインジアン・フィリップス曲線で記述し、そのわが国への適用可能性について、実証分析を行った。推計結果によれば、理論モデルの期待する符号条件が統計的に有意に得られること、かつ変数の選択に対して一定の高い頑健性を有することが確認され、粘着価格・賃金モデルのニューケインジアン・フィリップス曲線は、わが国の物価と賃金のダイナミクスを説明する枠組みとして有用であることが示された。すなわち、粘着価格・賃金モデルの理論的な予見のとおり、物価・賃金インフレ率の決定が、過去や現在の動向だけではなく、先行きに対する期待の影響を受けること、またGDPギャップのみならず実質賃金ギャップにも依存することが示された。さらに、本稿の推計結果は、物価や賃金の決定において、フォワード・ルッキングな要素に加えバックワード・ルッキングな要素も重要であることや、価格改定確率でみた粘着性は、GDPデフレータがCPIよりも価格伸縮的であることも明らかにしている。
キーワード:フィリップス曲線、インフレ率、粘着価格、粘着賃金
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