金融研究 第23巻別冊第1号 (2004年6月発行)

上場変更と株価:
株主分散と流動性変化のインパクト

宇野淳、柴田舞、嶋谷毅、清水季子

 上場市場の変更は、当該企業の株主数や株式売買状況をしばしば大きく変化させる。株主ベースの拡大によるリスク分散効果の向上(Merton[1987])や流動性の向上(Amihud and Mendelson[1986])は、株価にポジティブなインパクトがあるとされる。米国のNASDAQ上場銘柄がニューヨーク証券取引所等に変更するケースを対象にした先行研究では、これらの仮説が支持される結果が得られている。ただ、米国市場のケースでは、各市場で採用されている売買メカニズムが異なるため、これが要因として働いている可能性もある。
 そこで、本研究ではJASDAQ(旧「店頭市場」)から東京証券取引所(以下、東証)に移動した銘柄のなかで、同一の売買メカニズムのもとで取引されている銘柄を対象に検証を行っている。1999年から2002年の間にJASDAQから東証に上場変更した銘柄は、上場変更の発表日から実際の移動日までに、ポジティブで有意な累積超過収益率を観測しており、それが株主分散効果と相関していることが確認された。しかしながら、この関係は東証1部へ移動した銘柄のみにみられるものであり、インデックス運用との関係で、上場変更発表後の取引増加が顕著であることとの関係が示唆される。また、上場変更時に公募や売出しを行って株主数の大幅増加を達成した銘柄では、超過収益率が相対的に低くなるという関係もみられた。超過収益は、単にJASDAQから東証に移行することで生じるのではなく、移行のプロセスや移行先での取引参加者の状況に影響を受けているという結果である。

キーワード:マイクロストラクチャー、上場市場、売買メカニズム、株主分散効果、流動性、累積超過収益率


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2004 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム