金融研究 第23巻第2号  (2004年6月発行)

金融業務と人工物メトリクス

松本勉、岩下直行

 情報通信ネットワークを利用した電子金融取引が拡大する中、情報セキュリティ技術を利用して取引の安全性を確保する方法についての検討が進んでいる。これに対して、一般的な金融取引では、証書、証券、紙幣、プラスチック・カード等の人工的に製造された物理媒体(人工物)を利用した従来型の取引手法が維持されており、安全性確保の方策にもあまり変化はない。ところが、金融業務に利用されている紙やカードなどの人工物のセキュリティは、近年の技術進歩に伴い、大きな脅威にさらされている。現代の金融業務が、その安全性をこれらの人工物に大きく依存していることを考えると、中長期的な観点から、その安全性、信頼性を維持するための枠組みを整備していくことは、金融業界における重要な課題と考えられる。
 そこで、本稿では、情報セキュリティ技術の手法を用いて、人工物を利用した取引の安全性、信頼性を向上させる仕組みである、人工物メトリクスについて考察する。人工物メトリクスとは、筆者の一人がバイオメトリクスという用語を参考に造った言葉であり、「人工物に固有の特徴を用いて人工物を認証する技術」という意味である。典型的には、人工物に対して、人間の指紋に相当する、おのおの異なるランダムな固有パターンをあらかじめ付与しておき、取引の都度、その固有パターンを計測し、事前に計測された情報と照合することによって、人工物が本物であるかどうかを検証する技術のことを指している。
 本稿では、人工物メトリクスの基本的なコンセプトを紹介するとともに、金融業務分野での実際の適用事例を踏まえて、今後の研究課題に関する問題提起を行う。

キーワード:人工物メトリクス、人工物メトリック・システム、バイオメトリクス、情報セキュリティ技術、偽造対策


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