金融研究 第23巻第2号  (2004年6月発行)

負債と資本の区分問題の諸相

川村義則

 本稿の目的は、企業会計における負債と資本の区分の問題について、伝統的な理論の変遷や会計基準の国内外の動向などを踏まえて考察することにある。
 負債と資本の区分の問題は、関連する問題をすべて一般化して論ずることは難しく、総論的に区分の原則を定めても各論の解答が直ちに得られるものではない。したがって、本稿では、貸借対照表の貸方区分のあり方についての一般的考察を行ったうえで、具体的な個別問題について、おのおのの特徴を浮彫りにしつつ、ある程度類型化して論じている。
 考察の結果、貸借対照表の貸方は、請求権の優先劣後関係の表示と、残余利益計算の基礎の提供という2つの観点から区分されると捉えたうえで、貸方区分の現実的な選択肢としては、(1)請求権の優先劣後の観点から「優先区分」と「劣後区分」に分類し、さらに残余利益計算の基礎を画定する観点から「劣後区分」の中で「残余持分」を区分するアプローチと、(2)請求権の優先劣後からは無区分(優先順位によって配列)としつつ、残余利益計算の観点から「残余持分」については他の持分から区分するアプローチの2つが考えられることを述べている。また、個別問題については、優先株式、株式オプションおよび少数株主持分は、いずれも「劣後区分」のうち「残余部分」を構成しない部分に分類される場合が多いと考えられること、複合金融商品を負債と資本に分離して会計処理する場合の分離方法としては「基本的構成要素」ごとに分離する方法が他の方法よりも優位性を持っていると考えられること、を指摘している。

キーワード:負債と資本の区分、優先株式、株式オプション、少数株主持分、複合金融商品


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2004 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム