本稿では、名目賃金に下方硬直性が存在することによって、雇用者の離職行動がどのような影響を受けるかを1993~98年のマイクロ・データを用いて検証した。具体的には、名目賃金に下方硬直性が存在するため、実際の名目賃金が理論的に想定される適正な水準よりも高止まった場合に、雇用者が離職を控える傾向があるかをサバイバル分析によって実証的に明らかにした。
分析結果によれば、フルタイム男性・女性については、名目賃金の下方硬直性によって名目賃金が据え置かれる確率が高くなるほど、離職が抑制されていたことが明らかになった。もっとも、こうした影響の統計的有意性は高くなかったほか、名目賃金の下方硬直性の度合いを示す指標として別の代理変数を選択した場合には、有意な影響が観察されなかった。また、パートタイム女性についても、名目賃金の下方硬直性が継続雇用期間に明確な影響を与えていたとの結果は得られなかった。
キーワード:名目賃金の下方硬直性、マイクロ・データ、サバイバル分析、離職行動
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