金融研究 第22巻第4号 (2003年12月発行)

「組織形態と法に関する研究会」報告書

 本稿は、「組織形態と法に関する研究会」(メンバー<五十音順、敬称略>:伊藤秀史、岩村充、宇賀克也、神作裕之、神田秀樹、北村行伸、能見善久、藤田友敬、前田庸<座長>、増井良啓、事務局:日本銀行金融研究所)の報告書である。
 企業活動をはじめとする各種の共同事業のために、法によって、法人、組合その他のさまざまな組織形態が設けられているが、近時、そうした組織形態に関する法制度については、新しい組織形態(特定目的会社、中間法人、弁護士法人等)の創設、特定の事業に関し利用できる組織形態の範囲の拡大(証券取引所の株式会社化等)等、組織形態の多様化・流動化とでも言うべき動きが生じており、またそれを受けて組織に関わる税制面においても新たな動き(特定目的会社に対する導管課税等)がみられる。こうした中にあって、企業活動その他の共同事業の円滑化を図る観点から、組織形態に関する法規整(私法ルールや課税ルール)はいかにあるべきか、組織形態に関する近時の立法の背後に理論的・政策的整合性を見出し得るか等といった点が問題となる。
 このような問題意識に基づき、本報告書は、まず、2章において、私法上の観点から、組織法の存在意義は何か、法が多くの組織形態を用意しているのはなぜか、また、税法上の観点から、組織形態に関してどのような考え方に基づき課税ルールが設定されてきたのか、組織形態の多様化・流動化によりそれがいかなる影響を受けるのか、といった検討の視点を提示している。
 次に、こうした視点に基づき、3章では、私法上の観点から、既存の理論枠組みを踏まえながら、現行法上の組織形態に対する法規整およびその組織法の中核をなす法人制度の法的枠組みを概観したうえで、「組織法」の意義と機能を、組織の外部との法律関係および組織の内部の法律関係という2つの局面に分けて、経済学の知見(法と経済学、組織の経済学等)をも参照しつつ、分析している。また、4章では、税法上の観点から、組織に関する税制の現状を整理したうえで、組織形態と税制の関係を巡る議論の現状を概観している。そして、5章では、むすびとして、組織法の存在意義を確認したうえで、組織形態の法設計のあり方、組織形態との関係からみた税制のあり方等について若干の検討を行っている。さらに、補論では、「組織に関する経済学の分析枠組み」(補論1.)を概観するほか、本報告書の問題意識に関わる事例研究として、「非営利法人から株式会社への組織形態変更の動き」(補論2.)、「新たな組織形態(「日本版LLC」)の創設の動き」(補論3.)を取り上げている。

(本報告書は、当初、2003年10月に公表された。その後、『金融研究』への掲載〈2003年12月〉に当たり、若干の編集上の変更が加えられている。)


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2003 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム