金融研究 第22巻第2号 (2003年6月発行)

潜在GDPとフィリップス曲線を同時推計する新手法

鎌田康一郎、廣瀬康生

 本稿の目的は、潜在GDPとフィリップス曲線を同時推計する新たな手法を提示することにある。ここでいう潜在GDPとは、実際のGDPの単なるトレンドではなく、インフレ率を加速も減速もさせないGDP水準(non-accelerating-inflation level of output: NAILO)のことである。応用例として、わが国のNAILOとフィリップス曲線を推計し、それらの性質をさまざまな側面から分析した。主な分析結果は次のとおりである。NAILOから測ったGDPギャップは、1980~90年代を均してみれば、マイナスで推移しており、当時の世界的なディスインフレ傾向を上手く捉えている。また、このGDPギャップは、企業の景況感との整合性が高く、景気指標としても有用である。もっとも、NAILOは、推計に利用される基礎データが改訂されたり、時間の経過と共にデータが追加されるにつれ、再推計が必要になるなど、不確実性をはらんでいる。このため、NAILOを利用する際、特に、リアル・タイムな情勢判断を必要とする現実の政策決定過程においては、こうした不確実性を十分考慮に入れて、慎重な解釈を加えることが望ましい。

キーワード:潜在GDP、フィリップス曲線、ホドリック=プレスコット・フィルタ


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