金融研究 第22巻第1号 (2003年3月発行)

政府会計の理論的枠組みを巡る課題について
─IPSASに関する検討を出発点として─

山本清

 国際会計士連盟(IFAC)による公的部門にかかる国際会計基準(IPSAS)の策定作業や近年の各国における政府会計改革には、公的部門に擬似的な市場を導入することによって、その経営モデルを企業モデルへと変換させようとするニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の考え方が影響している。もっとも、政府の提供する行政サービスには、その特殊性から、顧客との交換取引関係として位置づけられないものや、価格づけが困難なものが少なくない。IPSASをはじめ、NPMの考え方を適用した政府会計基準を策定する場合に難問とされるのは、こうした公的部門特有の経済取引にかかる会計上の認識と測定のあり方を、企業会計の論理でどこまで整合的に解釈し、具体化するかである。その際には、とりわけ、公的部門を特徴づける権力性・独占性および公共性の要素が含まれる税に関して、その背景にある民主主義のメカニズムを踏まえつつ、その会計処理を検討することが重要である。
 本稿は、こうした問題意識に基づき、IPSASのような企業モデルに基づく会計基準を政府に適用する場合の考え方および問題点について税の位置づけを中心に整理している。そのうえで、税の位置づけに関し企業モデルに依拠しない代替モデルの論理および限界につき検討し、企業モデルを超えた政府会計の理論的枠組みを構築することの必要性と、わが国における政府会計の課題について論じている。

キーワード:政府会計、IPSAS、民主的統制モデル、税の会計処理、NPM


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